4月13日(土)阿佐ヶ谷地域区民センター第三・第四集会室にて、「羽村駅西口土地区画整理事業裁判(住民訴訟)」の弁護士を務めている山本志都さんを招いての講演会が開催されました。
羽村駅西口の多摩川に向かう自然ゆたかで歴史的な地形を残す街なみを、40m道路を基盤とする碁盤目につくりかえる道路事業に反対して住民が129名の原告団を結成して起こした訴訟です。都市計画法や区画整理事業の知識を要する複雑な裁判について、わかりやすく解説してくださっています。
住民訴訟はとてもハードルが高いので、勝敗以外にも証拠を請求して情報を公開させることなどで得るものがある、また、「原告適格」はじめさまざまな制約があるが、住民側が萎縮することはない、など、困難に対しても果敢に取り組む山本弁護士と羽村の住民の実践はとても力強いものです。
第二次裁判の2019年地裁判決では全国初の取消判決を勝ち取り、原告適格を広く認め、住民側の主張する事業計画の羽村市会計が破綻していることも断罪。画期的な判決でしたが、羽村市が控訴、5月15日にも口頭弁論を控えています。
全編の動画はこちら(撮影:Keitaroちゃんねる さん)。
20240413【行政訴訟・土地区画整理裁判を考える】 ■講演:山本志都弁護士(東京弁護士会)主催 阿佐ヶ谷の原風景を守るまちづくり協議会 - YouTube
以下にレジュメ全文と羽村の資料を掲載します。
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1 「土地区画整理」とは
「都市計画区域内の土地について公共設備の改善及び宅地の利用増進をはかるため
この法律で定めるところに従って行われる
土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業」
実際には、面で指定した区域内の土地の形を整え道路整備を行う事業⇒碁盤目上の街区
使われるのは換地処分:道路が整備されることで土地の交換価値が理屈の上で上がるとされ、一部を無償提供=減歩し、整備された宅地に交換
一方で土地の小さい人や減歩ができなかった人は清算金の負担
⇒住民が事業に反対であっても土地が取り上げられ、場合によっては経済的負担を被る
(田畑・森林の開発、大規模災害からの復興には活用されてきた)
施行者:個人、組合、区画整理会社、都道府県及び市町村、
国交相、(独行)都市再生機構
組合:7人以上共同して組合設立 3分の2以上の者・地積の同意
2000年ころまで多用 人工集中地区面積の約3割
しかし、合意形成の困難さ、財政上の困難
⇒民間投資との組み合わせ「民間活力を活かした土地区画整理事業」
2 個人施行の特徴
・組織の立上げが不要=合意形成に時間がかからない
・理事会・総会などの議決不要=事業期間が短縮
・地権者全員の同意が必要
一般的な開発(都市計画法による許可)と異なり、
・税優遇措置=換地取得による不動産取得税・登録免許税など非課税
・建築=仮換地指定後は建築着手可
3 「福生都市計画事業羽村駅西口土地区画整理事業」を例にあげて
◆計画の概要
○原決定=2003年4月
施行者:羽村市
施行地区:羽東一丁目、羽東二丁目、羽東三丁目、川崎一丁目、川崎四丁目、羽中一丁目、羽中二丁目の各地内
施行地区面積:約42.4ヘクタール(羽村市面積の4%)
事業施行期間:2003年4月~2022年3月
事業費:355億円
(当該地域の住民:2002年当時3400人(羽村市人口の6%)、968棟の建物)
○本件決定による変更=2014年12月
【青写真判決(最高裁1966年判決)の変更(2008年)→計画そのものを対象に】
公共用地:約14.2ヘクタール→約14.5ヘクタール
宅地:約28.1ヘクタール→約27.8ヘクタール
平均減歩率:22.27%→21.75%
事業費:355億円→370億円(増加分は羽村市負担金の増額)
事業施行期間:2003年4月~2022年3月【当初計画と変らず】
○本件事業の特徴
すでに開発が進んだ羽村市内で最も利便性が高く、かつ環境面でも恵まれた地域
人口密度が高く、地区の80%が建築用地として利用されている完成された住宅地域
事業により道路面積が激増 対象地域の14.13%⇒29.55%
道路幅40メートルの巨大道路などで街を分断(多摩モノレール延伸を前提)
◆停滞している本件事業=計画の大破綻
約2万5000筆の土地、983棟の移転対象建物
2015年8月時点まで仮換地指定はわずかに6回、対象19筆、移転家屋にして12棟
2015年9月市議会 「今後30年はかかる」
=本来予定されていた事業の進行では全ての事業を終了するまでに79年がかかることがわかり、「集団移転」方式をとることにしたため、30年に短縮された旨の説明
2018年3月市議会での市長答弁「これまでに行われた仮換地指定は37カ所で、取り壊しをした棟数が、平成29年度末の見込みで45棟」
◆主要な事実の経過
1978年:羽村町、西口周辺地区3.7ヘクタールの基礎調査を新都市建設公社に依頼
1980年:羽村町、西口周辺について区画整理を前提とした調査を新都市建設公社に委託
⇒既に下水道が完備。既存の道路を尊重し、大幅な変更はせず修復型の整備を行うべき
1988年:羽村駅西口地区整備対策協議会設立
羽村町議会で「区画整理計画を白紙に戻し、
現状を生かした住民負担の少ない計画の立案要求」の陳情が採択
1992年7月11日:市と羽村駅西口整備対策協議会が会合
市は①土地区画整理を基軸とした整備
②施行地区の拡大(当初の2.5倍に)
③「まちづくり委員会」の設置 の3点合意と主張
9月:説明会前に、市長は市議会にて「区画整理でやることが確認」と発言
11月~12月:市主催の懇談会が行われる。
1996年6月4日:東京都、都市計画案の公告縦覧
2002年3月18日:羽村市、事業計画案公告・縦覧
10月1日:反対派住民226名が住民監査請求を提出
10月15日:羽村市、上記の住民監査請求を「具体性が無い」と却下
11月13日:東京地裁へ住民訴訟提起(原告129人)
2003年4月14日:東京都、事業計画について認可
4月16日:羽村市、事業計画決定を公告(原決定)
2006年4月25日:最高裁、住民訴訟について破棄差戻判決
2008年2月19日:初めて駅前一棟を仮換地指定
3月14日:事業計画の第1回変更
2010年12月27日:第2次換地設計決定
2013年1月15日~29日:都市計画変更の公告・縦覧
8月13日:換地設計決定
11月5日~18日:羽村市、事業計画変更の公告・縦覧
2014年5月15日:東京都・都市計画審議会。口頭陳述の希望者が350名
12月15日:東京都、事業計画変更について認可
12月17日:羽村市、事業計画変更決定を公告(本件決定)
2015年6月8日:本件訴訟提起(原告121名)
◆対象区域住民の根強い反対(主要なもののみ)
1996年4月:都市計画審議会の公告縦覧に対して中止を求める署名1695筆、反対意見書3439通
1996年8月:「行政手続の中止に関する陳述書」(地域内住民)1402名
1998年2月:「事業の中止を求める陳情書」(地域内住民)1407名
2002年3月:「区画整理反対署名」(地域内成人)735筆
2002年4月:事業計画案への反対意見書1243通
2002年9月:都市計画審議会で223名が反対の意見陳述
2008年2月~2009年1月:「区画整理手法でなく修復型街づくりを求める署名」510筆
2012年10月:「2次換地設計案に対する意見書の結果通知」に対し意見書提出105通
2013年9月:「第2次案反対に関する陳情書」(地権者)427通
2013年12月:事業計画変更反対意見書 539名から912通
2014年6月:東京都都計画審議会で208名が反対の意見陳述
◆本件訴訟の原告・被告の主張の要旨
◆判決 2019年2月22日 全国で初めての取消判決
1)原告適格を広く認めた
すでに土地を売却してしまった人、地域内に住んでいたが現在外にいる人など以外は
宅地上の建物所有者、賃借人、使用借主、占有補助者も含め、
「居住の利益が損なわれるという不利益を受ける地位に立たせられる」
2)事業計画、道路都市計画についても細かく判断を示した
3)当初計画と変更計画との関係を合理的に判断した
別個の行政処分ではあるが、
見直しの影響が及ぶ事項に含まれる決定内容の違法は、それが当初から存在していても、
変更決定自体の違法として争いうる
4)換地先が決まっていないので照応原則違反はまだいえないとした
5)会計計画がめちゃくちゃであると断罪
○土地区画整理法施行規則10条1項違反
歳入額が210~240億円の自治体で、
2015年から2019年は1年26~59億円の負担金を出すという収入計画
そのまま実行できない、現実にこのような金額を支出する予定もない
⇒確実性のない予算を実行していいということにはならない
○同規則10条2項違反
単年度で最大77億円以上もの支出をするという計画
非現実的なもので適正・合理的な基準によらないもの
⇒資金計画において不合理な支出金を計上していいということにはならない
○地方自治法2条14項、地方財政法4条1項の趣旨違反
施行者に与えられた裁量権の範囲を逸脱・濫用するもの
6)事業施行期間は到底実現不可能
土地区画整理法54条、6条9項違反
2013年度までに事業費6.6%しか使っていない
2015年の報告書によれば「79年間の事業期間必要」集約化しても30年間
度重なる市長答弁からみても、進捗状況と乖離し到底実現不可能なもの
⇒適切でない事業施行期間を記載してよいということにはならない
7)事情判決(行政事件訴訟法31条1項)を適用しないと明言
2万5000筆の宅地と900棟の移転対象建物
2015年8月まで仮換地指定が6回(宅地19筆、移転家屋12棟のみ)
◆その後の状況(取消判決出ても止まっていない)
- 控訴審
2019年3月6日 羽村市が地裁判決を不服として東京高裁に控訴
2019年7月29日以降13回の口頭弁論期日を経て
2022年8月8日 判決(却下)
控訴審における羽村市の主張の骨子
訴訟の対象について:第3回事業計画変更によって第2回変更決定は効力を喪失
→訴えの利益失われる→却下求める
地裁判決取消し
○新たな争点
1)控訴審における審判の対象
羽村市:資金計画、事業施行期間の設定が違法であるとした原審の判断に対して、羽村市が不服を申し立てたのだから、控訴審における審判の対象はその2点に限定される。しかし、これらは第3次変更決定により変更されたから、訴えの利益は失われた。
住民:第3次変更決定は、事業決定、第1次・第2次変更決定を前提とするもので、別個の新たな事業計画が決定されたものではなく、第2次変更決定の取消訴訟に係る訴えの利益は、3次変更決定によっても失われない。控訴審における審判対象は、2次変更決定の適法性であり、その構成要素である資金計画・事業施行期間についても変更前の適否が判断対象となる。
2)事情判決(行政事件訴訟法31条)の法理について
羽村市:原状回復義務を負うなど「公の利益に著しい障害を生ずる」ので、第2次変更決定が違法であるとしても事情判決をすべきである。
住民:必ずしも原状回復は必要ないし、まだ換地処分までされていないので、事後処理は可能である。全体の規模や進捗状況からすれば、ここで事業を取り消すことが公の利益に資するものである。
○裁判所の判断
1)について 2)については判断せず
審判対象は当該処分の違法性一般なので審判の対象が2点に限定されるという羽村市の主張は×→2次変更決定全体が審判の対象
しかし、①資金計画の内容、②事業施行期間の設定については、3次変更決定によって変更され、「その審理の対象が既に存在しない状態になっているのであるから、かつて存在した上記①、②の内容それ自体の適否については、本件訴訟(控訴審)において審判する実益は失われ、原則として判断を要しない(判断の必要もない)というべきである。」
(第3次変更後の事業計画全体の適否については別訴で争うべき)
とした上で、都市計画・第2次変更決定の違法性について判断を示した
①②以外の点について原審の判断を維持
①②については本来触れる必要がないが、「事案に鑑み、当裁判所の見解を示すこととする」=言わなくていいことを言っている部分
土地区画整理事業においては資金や期間を正確に予測することは困難→
2次変更決定の適否の判断にあたっても、その決定時点に存在した事情のみに限定されず、事業の執行状況、予算規模、追加の予算措置の獲得、施行期間の延長の可能性等の事情などを総合的に考慮すべき
「ある一定の時点で、事業計画そのものの内容からは一見実現可能性がないようにみえる(に至った)場合であっても、本件のように、事業が相応に進捗し、また、控訴人において、その後の事業計画の進捗を踏まえて事業計画の変更を具体的に予定したような状況にある場合」総合的考慮の結果
「実現可能性を欠くものとして直ちに違法であるとまでは認められない」
○裁判所の判断に関するコメント
①変更がされた点については審判の対象が消えてしまう、という判断
=住民の裁判を受ける権利を侵害し、行政の適法性について事後的に判断するという司法の役割を放棄する
②審判の対象がなくなったというなら何も言わなければいいのに、あえて、資金計画と施行期間について「事案に鑑み」言及するという判断
=行政の肩を持ち、高裁として後続の判断に悪しき影響を当たる
③計画が作定された時点の事情のみならず、その後の事業計画の変更予定までも違法性判断の際に考慮できるという判断
=行政側はいつでも「事業計画の変更もありうる」と言っていれば、住民は計画の違法性を問えなくなる、条文の意味がなくなってしまう(資金がなくても著しく長期間であっても計画が通ってしまう)
⇒公共団体の行う土地区画整理事業では取消判決が出ることがありえない、ということになりはしまいか
- 第3回事業計画変更決定:2019年5月20日⇒別に係属中の事件の対象
事業施行期間:~2037年3月(事業期間34年=15年間延長)
事業費:370億円→436億円(66億増額)
「軽微変更なので、縦覧や都・都市計画審議会は必要なし」
2019年11月13日 東京地裁に提訴
現在もなお係属中
住民:延長しても増額しても完成は不可能
- 推進市長落選
2001年4月~2021年4月 5期勤めた並木心「推進」「最大の課題」
2021年3月28日選挙 橋本弘三 「検証」
しかし、2024年4月現在、「検証」したがストップしていない
⇒裁判でいったん勝ち、市長落選させても止まらない事業に対して、住民の怒り
・コミュニティの破壊
・住民の関係の悪化
・嫌気がさして引っ越す人も多く住民減少
・反対運動を続ける負担の大きさ
◆参照
「羽村駅西口土地区画整理事業反対の会」(住民団体)https://hamura.jimdo.com/
4 阿佐ヶ谷駅北東地区の場合
◆実質的には再開発的なもの
⇒個人の土地所有権と結びつける形での反対運動の形成は難しい
・土地区画整理事業 土地の提供を受けての「面」整備
・市街地再開発事業 敷地を統合して「高度利用」することでの「空間」整備
権利変換方式、管理処分(用地買収)方式
「土地区画整理事業との一体的施行」(都市再開発法118条の31)
◆地方公共団体としての費用負担の適切性という切り口
監査請求→住民訴訟
2006年4月25日最高裁判決(破棄差戻し)=入り口を広げる判決
2002年10月1日 監査請求 2001年度「事業関連1億500万円」
10月15日 羽村市却下
・他の事項から区別し特定して認識することができるように
個別的・具体的に摘示されていることをもって足りる
・土地区画整理法上の事業計画の決定及び公告がされていなくても、
土地区画整理事業の都市計画決定がされて施行区域も定まり、
羽村市の本件事業に関する事業計画(案)も縦覧に供され、
施行規程も制定されるという段階に至っている以上、
本件事業及びこれに伴う公金の支出がされることが相当の確実性をもって
予測されるかどうかの判断を可能とする程度の特定性もある
差戻し後その後の支出も含めて内容の審理→棄却
複雑怪奇な仕組みの故にコンサルタントへの多額の支払い
羽村市の場合も東京都都市づくり公社(旧東京都新都市建設公社)
2014年度より民間コンサルタントと連携して「移転実施計画システム」
多摩地区の公共団体施行の8割
オオバ、双葉、日本測地設計、建設技術研究所などの大手コンサル
他にも推進のための団体に対する補助金付与についての監査請求→住民訴訟も
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資料
ニュースレターNo.289